2009年8月9日日曜日

【本】誰のためのデザイン?

認知科学者のデザイン原論
D.A.ノーマン著 野島久雄訳
THE PSYCHOLOGY OF EVERYDAY THINGS
Donald A. Norman
「私は、ヒューマンエラーや産業事故の研究をするようになった。そしてわかったのは、人がいつでも不器用に行動するとは限らないことであった。いつでもエラーをするわけではない。人がエラーをするのは、その物がよく考えられていなかったり、デザインが悪かったりするときなのである。」


人の認知に関する理論

メンタルモデルと概念モデルについて
 メンタルモデルとは、人がある対象(自分自身、他者、環境)について理解するモデル。概念モデルはその一部で、概念を理解するために人が構築しているモデル。

 人の概念モデルを利用することで、学習の期間を簡易化することができる。

責任追及
 人はある対象について、知覚することができないと、それを論ずることができない。例えば、あるシステムを使っていて、そのシステムの操作法がわけわかめな場合、(そもそもそのシステムがどういうものか知覚できていないと)自分の操作法が悪かったと言う風に思いがちである。

 一方、人は説明がつくことを好む性質もある。なんらかの問題が発生した時に、一見納得できるような説明をつけられてしまうと、それで満足しがちな傾向がある。この場合の満足は、自己満足にすぎず、問題の本質的解決は先送りされることになる。(飛行機の操縦の場合などに危険。)

行為の7段階
 人は、以下の7つのステップに基づいて行為をしている。開始点はこの7ステップのどこからでもあり得る。

・ゴールの形成
・実行意図の形成
・行為の詳細化
・行為の実行
・外界の状況の知覚
・外界の状況の解釈
・結果の評価
・行為が困難な事例

 ある会議中に発表者が映写機を使ってフィルムを映そうとした。しかし、映写機にフィルムをかける方法が分からず、20分くらい格闘した後、映写技師を呼ぶはめになった。この時の問題である「使いづらい機械」ということを分析すると、こうなる。

・フィルムを映写機にかけるという行為と、映写機のメカニズムとの対応付け(同定)が困難だった。
・映写機の機能を確認する術がなかった。ラベルとか、マニュアルとか。
・映写機になんらかの行為をした際に、フィードバックがなかった。(やっていることが合っているのか、間違っているのかが分からなかった。)

対応付け
 行為をした際には、なんらかのフィードバックが必要。

・可視性・・・表示画面は便利。自分がやったことが何か見ることができる。
・音・・・視覚を使えない時には、確認に対して音など、他の感覚をつかってもいい。ただし、フィードバックの音はそれ以上の意味をもつ(ように感じてしまう)ことがないよう。

思考モデル
・思考モデルは、論理と秩序の構造からなている。
・人の記憶は、連想にもとづく。
・人が演繹する能力は、すでに持っているスキーマから別のスキーマを演繹すること。
・無意識の意思決定は、パターン認識に基づく。
・有意識の意思決定は、コストが高い。過去事例との比較や判断などが行われる。
・人はある問題に集中してしまうと、他のものが見えなくなる傾向がある。

よいデザインとは

よく検討されている
「よいデザインだ」と言われるものは、デザイナーによって多くの検討がなされているものだ。

・ユーザーがこれを使ってどんなことをしそうか。
・どんなエラーが想定されるか
・エラー時にはどういう対応をすればよいか
 などなどを、よく考え抜くことが大事。

使うにあたって記憶が不要
 台所のコンロの口と着火スイッチの対応付けや、部屋の電灯とスイッチとの対応づけ。パッと見て分かるようなものであってほしい。それを操作するのに、事前に何かを覚えなくてはならないようなものは、いつまでたっても覚えられない。

シンプル
 アフォーダンスがはっきりしていれば、無駄な装飾を省くことができる。(例えばドアのノブに「引」とかかれているようなのは、押せるようにもみえるから、「引」という字を書かなくてはいけなくなっている。)

 車のドアノブは、よくできたデザインだ。ああいう形をしていると、指を入れて、決まった向きに引っ張るしかできないんだなと思える。

平均した機能はよくない
 たとえば左利きの人向けの定規は、目盛りが右利き用のそれとは逆向きにふってある。中途半端にしても、あまり便利にならない。ターゲットを絞る。

制約
 いつでも何ができるのか、何ができないのかが分かる状態にしておく。

可視化
 行為の結果や概念モデルが常に目に見えるようになっている。現状を常に評価できるようにしてコントロールができるようにしておく。

 これまで目には見えなかったことを、技術を使って可視化するというのも大事な視点。

対応
 自然な対応付けを尊重する。


使いやすいデザインの原則
1.外界の知識と頭の中にある知識を利用する
2.作業の構造を単純化する
3.実行と評価を可視化する
4.対応付けを正しくする
5.自然な制約と人工的な制約を活用する

ノーマンが挙げる「よいデザインの4原則」
・可視性:目で見ることによって、ユーザは装置の状態とそこでどんな行為をとりうるかを知ることができる。
・よい概念モデル:デザイナーは、ユーザにとってのよい概念モデルを提供すること。そのモデルは操作とその結果の表現に整合性があり、一貫的かつ整合的なシステムイメージを生むものでなくてはならない
・よい対応づけ:行為と結果、操作とその効果、システムの状態と目に見えるものの間の対応関係を確定することができること。
・フィードバック:ユーザは、行為の結果に関する完全なフィードバックを常に受けることができる。