- 人間は立つということをやって、そのために全身の骨から何から構造をどんどん変えた。全身に毛がない。こういう動物は他にはいない。
- 女性の乳房は哺乳器官であると同時に性的信号でもある。これも人間だけにみられる特徴。直立歩行して毛がなくなったことで乳房が性的信号の役割をもった。
- 人間は言語を持つ。これも他の動物にない特徴。子どもはだんだん言葉を話すようになっていくが、言葉や文法を親から教わるものではない。生まれながらにして備わっているもの、「生得的」「遺伝的」なのである。これを発露するために「学習」を必要とする。言語に限らず遺伝的にもった能力は学習しないと発露できない。
- 利己的な遺伝子"The selfish gene"・・・動物のあらゆる振る舞いは遺伝子がやらせていること。死なないために食べる。遺伝子を残すために子どもをつくる。子どもをつくるために異性と交わる。異性と交わるために関心をもつ、異性にアピールする。他を排除する。いかにその遺伝子が生き残るか、増えるかが動機になっている。
- 「社会とは種が生き残っていくための組織である」というのは、どうも間違い。動物にとって種族はどうでもよくて、自分の血のつながった子孫が欲しい。遺伝子を残したい。これを実現するのに適した「繁殖システム」「配偶システム」が「社会」なのであって、決して助け合うしくみなのではない。ダーウィンの『種の起源』に「よりよく適応した固体は、より多く子孫を残すだろう」とある。これをハバート・スペンサーが「適者生存」"survival of the fittest"と言った。これをうけて1970年ころに「適応度」"fittness"という概念がつくられた。いかに自分の子孫を残せるか、それを「適応度」と呼ぶようにした。「適応度」を高めるように努力したのが社会組織なのだ。という考えがある。アリ、オットセイ、サル・・・人間それぞれに。
- オスの戦略「できるだけ多くのメスに自分の子どもを産んでもらう」メスの戦略「できるだけ生存力の高いオスのこどもを産んで子孫を残す可能性を高くしたい」だからメスがオスを選ぶフィーメイル・チョイス"female choice"が起きる。シカがでかい角を頭に乗せてみたり、カエルが大きな声で鳴いてみたり、オスはメスにアピール合戦する。
- 動物は殺し合いをしない。オス同士が争うことは多くあるが、殺し合いは少ない。ジョン・メイナード=スミスがゲーム理論で実証した。殺し合いをしないほうが生き残るために有利なのだ。
- 人間以外の動物では一夫多妻が多い。丈夫なオスがフィーメイル・チョイスされるから。人間はヘンで一夫一妻制がほとんど。これは財産をもつ人間特有の、その相続権利を「結婚」という制度で明かにするためのもの。人間は昔からずっと多交であるが財産が絡むと結婚というかたちをとる。
- 人間は集団になっていることが好き。かなり昔から非常に変わった大集団をつくって、その中でいろんな変わった人たちと付き合いながら、いろんなものを学び取って憶えていくということをやってきた。自分の子どもであろうがなかろうが、「だめなものはだめ」と言ったり、「それはよくできた」と褒めたりとか、ずっとやってきたんじゃないか。それが世の中というものをつくってきたのだろう。現代は核家族になって、集団での学習機会が減っており危惧している。
- そもそもなぜオスとメスがいるのか。めんどうなのに。アメーバなど無性生殖では個体が分裂して増殖し、まったく同じ遺伝子が次世代に引き継がれる。これが問題。ある遺伝子にかかる病気に遭遇すると全滅してしまう。だから遺伝子を交ぜる必要がある。これにはオスとメスというしくみが都合よかったのだ。クローンなどというのは自然が苦労してつくりあげたしくみを逆行させる取組みだ。
- イマジネーション・・・創造力"creation"=思いつくこと。たえず、「そういえばあれだったなあ」「そういや、あれはこんな話だったな」とか思い出していると「ああ、そういえばこうかな?」っていうものが出てくる可能性が高くなる。よくものを思いつく人ってのはそういうものかもしれない
- イリュージョン・・・思い込み。これがないとものを見ることはできない。ある程度思い込みがないとものを見ることはできない。見たものすべてをイマジネーションをもって理解することはできない。
- 人間という動物はいろんなことができる動物であって、かついかし、やっぱり動物であることには間違いない。だから、人間はどういう動物かということを、われわれはちゃんと知る必要があります。
それではこの講義は終わります。ご苦労さまでした。
2011年1月9日日曜日
【本】ぼくの生物学講義
日髙敏隆 著