2009年1月17日土曜日

ハドソン川の奇跡、「選択肢尽きた」機長が冷静な判断

[ワシントン 15日 ロイター]
 米ニューヨークで15日に乗員乗客155人を乗せて川に不時着したUSエアウェイズの1549便。壊れた機体を操縦するチェスレイ・”サリー”・サレンバーガー機長は、高度920メートルで選択肢に尽き、意図的かつ冷静沈着に、ハドソン川への着水という道を選んだ。

 同機長は元空軍戦闘機のパイロットで、飛行歴は40年。今回操縦していたエアバスA320型機は、ニューヨークのラガーディア空港を離陸して間もなく、鳥の群れに衝突して双方のエンジンが故障したとみられている。
 機体は片方のエンジンが破損しても飛行できる設計。鳥との衝突によって両方の動力装置が壊れたことが連邦運輸当局の調査で事実と確認されれば、米航空史上では初めての事例となる。
 同機はノースカロライナ州シャーロットに向け、ラガーディア空港を午後3時半前に離陸。わずか数分後、ニューヨークの管制官には鳥にぶつかって両エンジンがやられたとのコックピットからの連絡が入った。管制官や航空当局者らの情報を集めると、全ての出来事は数分内に起こり、サレンバーガー機長は長年の経験で得たあらゆる知識を駆使してとっさの判断を迫られたようだ。
 ラガーディア空港に戻ったり、川の向こう側にある小さなティータボロ空港に着陸するにも、遠過ぎて間に合わなかったとみられる。管制官らによると、コックピットとのやり取りの中の「不気味な沈黙」が、選択肢がなくなっていることを示唆していた。管制官の労組によると、唯一残された道が、川に着水するという大胆な方法だった。
 レーダーは、同機が左方向へ何度か急旋回してハドソン川に向かい、ジョージ・ワシントン橋の上を低く通り過ぎる様子を示していた。
機体が川面に着くと、おびただしい水しぶきが上がった。
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 目撃者の証言では、機体は徐々に川に向かって降下しており、着水の衝撃を抑えるために、機長が懸命の操縦をしていたことをうかがわせた。
 この冬一番の冷え込みといわれる氷点下の寒さの中で救助された乗客の一人は、米メディアに、「機長は本当に素晴らしい仕事をした」と興奮気味に語った。
 ブルームバーグ市長によると、サレンバーガー機長は、機体が不時着後、2回にわたって機内を見回り、乗客の無事を確認して、全員を機外に脱出させた。乗客は川に浮かんだ飛行機の翼の上に並んで救助を待ち、多くが凍える川に身をぬらすことなく済んだという。機体は事故から約1時間後に川底に沈んだ。
 サレンバーガー機長と管制官の不時着前の交信記録を聞いた当局者は、「パニックもヒステリーもなかった」と述べるとともに、「プロの仕事だ」と機長に賛辞を贈った。

 「あの機長は男の中の男だ。事故後、フェリーターミナルに座り、何ごとも起きなかったかのように制帽をかぶってコーヒーをすすっていた」。救出後の機長を近くで見た警察官は、そう米メディアに語った。
 妻のロリーさんは事故直後、米メディアに「まだ私の体は震えているけれど、夫は大丈夫だと思う。彼は完璧(かんぺき)なパイロットです」と夫への信頼を語った。
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沈着冷静で互助精神に溢れた乗客。迅速に救援活動を開始した民間フェリー会社。
あいかわらず的確な行動のレスキュー・警察。
情報把握が適切で早く、すぐに効果的な会見をする市・州・政府。
なにより機長の最適な決断と、最善の結果を導き出した技術と努力、信念。
機長の決断を信じて支えたであろう乗務員。(なんと客室乗務員3名は皆50代)
アメリカ社会の大人度を見せられた思い。
自分がそれぞれの立場にあったとき、あの行動をとれただろうかと考える。(nssk)
【本】機長の教え
パイロットが凄かったのは元の飛行場に戻ろうとしたり、近くにある別の飛行場に着陸しようとしなかったことです。もしそれをやっていれば途中で墜落して乗員乗客とともに地上でも多くの死傷者を出したと思われます。
 瞬間で機体を捨てる、乗客の命を最優先すると判断できた機長は素晴らしい機長だと思います。(坂井優基)