五十嵐太郎 著
国立屋内総合競技場について
丹下は1950年代には伝統に強い関心をもちながら、一方でそれに抵抗していたが、60年代にはあまり気にならなくなったという(「座談会」「現代日本建築家全集10」三一書房、1970年)。
それを踏まえると、次の発言は興味深い。「しかし外国からくる連中が、お前の屋内競技場はたいへん日本的だというんですよ(笑)たいへんがっかりするわけです」
むろん、本人が意識しなくとも、伝統研究が血肉化して、日本的なものが自然と発露したとも言えるかもしれない。1930年代の日本らしさをめぐる建築表現よりも、そのデザインは高いレベルに到達している。が、海外から見る日本建築の宿命という側面もあるだろう。実際、安藤忠雄や石上純也のような現代建築も、日本人にとっては必ずしも日本的に見えないようなデザインではあるが、西洋人からすると日本的に感じられることが少なくないからだ。