2008年4月7日月曜日

【本】生物学におけるエントロピー


 エントロピー増大の法則は容赦なく生体を構成する成分にも降りかかる。高分子は酸化され分断される。集合体は離散し、反応は乱れる。タンパク質は損傷をうけ変性する。しかし、もし、やがては崩壊する速度よりも早く、常に再構成を行うことができれば、結果的にその仕組みは、増大するエントロピーを系の外部に捨てていることになる。 つまり、エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。 私はここで、シェーンハイマーの発見した生命の動的な状態(dynamic state)という概念をさらに拡張して、動的平衡という言葉を導入したい。この日本語に対応する英語は、dynamic wquilibrium(ダイナミック・イクイリブリアム)である。海辺に立つ砂の城は実体としてそこに存在するのではなく、流れが作り出す効果としてそこにある動的な何かである。私は先にこう書いた。その何かとはすなわち平衡ということである。 自己複製として定義された生命は、シェーンハイマーの発見に再び光を当てることによって次のように再定義される。

生命とは動的平衡にある流れである。

※福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」より引用

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シュレーディンガーは、生命をネゲントロピー(負のエントロピー)を取り入れエントロピーを排出することで定常状態を保持する開放定常系とした。この負のエントロピーというのは、光合成の反応がエントロピー増大にならないように見えたことによって作られたものである。しかし、このような誤解は光合成の際にブドウ糖合成に使われる約49倍の光エネルギーが熱となりエントロピーの発生になっていることを見落としているために起きたものである。ちなみに、このときに発生する熱の多くを、植物は蒸散として外部に処理している。
このように負のエントロピーなどという特殊なものは存在せず、生物も他の熱機関と同じように開放定常系として扱うことができるが、生物が違うところは自らを修復することにより積極的に物質循環を維持することである。例えば、エンジンにおいてそれを構成する主要な部品のどこかが不良になると、そこから物質循環が破壊されエントロピーが蓄積されるか、燃料など活動に必要な物質が供給されず、停止してしまう。しかし、生物の場合は、欠損した物質を外部から取り入れ、細胞などの構造を復元することにより物質循環を復活させることができる。これができなくなったときに生物は死を迎えるのである。

エントロピー (entropy) とは、物質の属性の一つ。記号「S」を用いて表される。物や熱の拡散の程度を表すパラメーターである。次元はJ·K-1である。
S = kBlnΩ Ω: 物質がとる状態の数、kB: ボルツマン定数と定義される。
はじめは熱力学の研究対象であったが、研究が進むにつれ、物質から得られる情報に関係があることが指摘され、情報理論に応用されるようになった。
※Wikipedia-「エントロピー」より抜粋。