2019年8月11日日曜日

虫展 −デザインのお手本−

展示を見ているのは誰だ?
養老孟司

人間はなぜアートを必要とするのか。
虫はデザインではありません。自然です。デザインはそれをお手本にしているんです。
そう、佐藤 卓さんは書かれています。単純明快です。私もそう思います。以上終わり。
というと怒られそうなので、付け加えます。
アートとは何か。最近それを考えています。アートがなくても生きていけますが、ないとどうも具合が悪い。大まかに言うと私たちの遺伝子は、神経系を生み出し、その神経系が意識を生みます。「このお湯は熱い」といった外界から得た情報を脳に送るその接点が「感覚」です。一方で、「熱いお湯はやっぱりいいな」と思うのが意識です。「感覚」と「意識」はどちらも大切で、感じるだけで考えないのも、逆に頭の中で考えてばかりいるのもダメです。どちらかに偏ってしまうと、あまりよくありません。とはいえ、現代人は意識の中に引きこもりがちです、引きこもり型と言ってもいいくらいで、意識、つまり脳の方ばかりに引っ張られてしまいます。それなら感覚を取り戻せばいいでしょうが。
そうです。アートは感覚の域にあるので、それならアートに触れると良い。なぜならアートは感覚と外界の接点にあるからです。小櫓山賢二さんのトビケラをあなたはどう見ましたか蛾の動きにヒントを得たラオスの小林さんのダンスは?
トビケラも蛾も自然の産物です。ですが、それを小櫓山さんはアートの観点で見て、あの画像を創り出しました。小林真大さんは蛾の動きの美しさを見出し、あんな風にと夢見て、舞い踊っているのです。一生懸命になると我を忘れます。あれは神経系の働きで、気持ちの良いものです。さて、そこで質問す。「我を忘れた」と思うのは誰でしょうか。
最後に脳みそを置いてもらいました。この脳みそ、見たでしょうこれを見ていたのはあなたです。この展示を見ているのもあなたです。デザインのお手本になるかどうか、感じるのも考えるのも、すべてあなたなのです。でもその外には、無限の世界があるんですよね。

21_21 DESIGN SIGHT