本田宗一郎 著
人間が一日コツコツ働く能力とすれば二十分の一馬力に過ぎない。四十ワットのモーターと同程度である。
しかもこの機械は一日最低九時間の休養を必要とし、場合によっては酒が呑みたい、綺麗な着物が着たい、ぜいたくなヤツは女が欲しいとまでいいだすのであってみれば、機械ならばまさにポンコツである。
ただ、人間が人間としての特権である『考える能力』を捨てて、動物や機械と同じことをやっていたら、ただこれだけの能力しかないということだ。
『働く』という字が『動く』という字と違うところは、その左側に『人べん』が付くと付かないの違いであるのは、人間である以上頭を使って動け、そうすれば前進的な仕事ができるのだということを示している。
すなわち『人べん』をとった人間の能力は二十分の一馬力に過ぎないが、『人べん』がつけばその能力は無限大の可能性をもってひろがるにちがいないのである。