「Think like true scientist(科学者のように考えよ)」と博士は常に周囲に語りかける。ものごとのうわべに惑わされることなく、深い洞察によって、その本質に迫り、科学者として「Cause & Effect Logic(因果関係のロジック)」を活用して、ひとつひとつは当たり前と思われる現象をつなぎ合わせてみる。そして、どんな複雑なものでもシンプルにして、誰でもわかりやすく、その本質を解き明かしていく。本質に迫れば迫るほど、一見異なったものごとにも共通の類似性と対象性が見つかり、そのことに人は美しささえ覚える。
常識的なことを説明することは、当たり前だと片付けることもできなくはない。しかし、常識的なことを誰でも納得できるように説明することは極めて難しい。リンゴは落ちる。それは常識だ。この常識に対して、ニュートンは「なぜ?」と問いかけ、因果関係をつまびらかにし、万有引力の法則を発見した。それが偉大なことであるのは誰もが認めるところであろう。それは、彼の発見が科学の発展に貢献し、世の中に広く活用され、世の役に立っているからではないだろうか。ゴールドラット博士も科学者としてまったく同じアプローチをとっている。社会科学の領域にハードサイエンスの手法を持ち込み、複雑なものを解き明かす。その本質をシンプルに明らかにすることで、理論化して、世の役に立つことを博士は願ってやまないのだ。『理論』を広辞苑で調べると、「個々の事象や認識を統一的に説明することのできる普遍性をもつ体系的知識」とある。博士が「Theory Of Constraints」と名づけ、科学的な理論として、位置づけたのも頷けるところである。
『ザ・チョイス』は実践的なノウハウの詰まったビジネス書でありながら、人生そのものについて問いかける、とても哲学的な本だ。そして、組織と人の人生という異なったものを本質的に解き明かす。そのメッセージは最後の章に以下のようにまとまられている。
・人はもともと善良である
・すべての対立は解消できる
・ものごとは、そもそもシンプルである
・どんな状況でも飛躍的に改善できる
・すべての人は充実した人生を過ごすことができる
こうして並べてみると、日本的美徳さえ感じる。そして『調和』は、常に彼の著作物に見られるキーワードである。最近の傾向として、博士は「Harmony」より「Wa『和』」という言葉を好んで使うことが多い。
博士は「トヨタ式生産方式の生みの親である大野耐一氏がいなかったら、TOCは存在しなかった」と常に公言するほど、大野氏を尊敬してやまない。
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意義ある人生のために!
『ザ・チョイス』エリヤフ・ゴールドラット著
あとがき(岸良裕司)より