2009年1月12日月曜日

【本】感動をつくれますか?

久石 譲著

●ものづくりの姿勢
芸術家になるのは難しいことではない。内容を別にすれば、世間的には自分が決めればいいだけのこと。「私は芸術家です」と規定したら、その瞬間からその人は芸術家。
一方、商業ベースでものをつくっていくには、自分がどんなに「その道の専門家です」「プロとして自信があります」といったところで、仕事を発注してもらい、力量を認めてもらわなければ成り立たない。「こいつ、面白いな。やらせてみよう」とか「なかなかできるぞ、よし、任せてみるか」と思ってもらい、実際に引き受けた仕事で成果を見せなければならない。それがいい仕事であるかどうかの評価を下すのは決して自分でははく、発注者であり、世の中の需要である。つねに創造性と需要の狭間で揺れながら、どれだけクリエイティブなものができるか心を砕く。

●質より量で自分を広げる
いかに多くのものを観て、聴いて、読んでいるかが大切。
創造力の源である感性、その土台になっているのは自分の中の知識や経験の蓄積だ。そのストックを絶対量を増やしていくことが、自分のキャパシティ(受容力)を拡げることにつながる。
さまざまなところにアンテナを張り、たくさん観て、聴いて、読む。行って、やって、感じる。知識や経験知の量を極力増やしていく。

●いい音楽は譜面も美しい
いい音楽だと、譜面の音符の配置が絵のようにきれいなのである。
だからスコアを1,2ページ見るとその曲のバランスの良し悪しもわかるし、作曲者の才能もわかる。さらには、その人のキャラクターまで透けて見えることもある。

●一つのテーマ曲で貫いた「ハウルの動く城」
・・・・僕はこれまで何作も宮崎さんの映画音楽をつくっているが、一度でもつまらない仕事をしたら、次に声がかからないことは知っている。いつもそういう切羽詰った気持ちで引き受けている。毎回が真剣勝負。苦しいが、この至上の喜びが全てを救ってくれる。

●プロの一員、プロの自負
監督の意向に従うことは大事だが、望んでいる通りのものを書いていたのではいけない。監督がこんな感じの音楽が欲しいとある思いを抱いている。監督の漠然とした思いを各々プロの立場で形にしていくのが僕らの仕事。監督が考えている世界を表現するのだけれども、さらにもっと広げたものを提供しようと努力する。
ものをつくる人間に必要なのは、自分の作品に対してのこだわり、独善に陥らないバランス感覚、そしてタフな精神力、この三つだと思っている。

●「おまえは世界一だ」
ステージに立つ前、毎回同じ行動をする。午後三時くらいからゲネプロ(本番どおりの稽古)があり、五時過ぎに終了。軽く食事。45分間仮眠をとる。起きたらトイレへ行き、タバコを吸い、ヒゲを剃り、顔を洗い、歯を磨き、体操をして、全部新しいものに着替える。ここでだいたい本番の15分前。一人になってテーブルの上にタオルをひいてイメージトレーニング。
その後、控え室の大きな鏡の前で全身を映して鏡の中の自分を力づける。今まで味わったプレッシャーの場面を瞬間的に思い浮かべる。「チェコフィルと生演奏したときのことを考えてみろ。あそこも乗り切ったじゃないか」「カンヌはどうだった?あそこも乗り切ったじゃないか」と考えて成功をイメージする。最後に「おまえの音楽は世界一だ。それを演奏するおまえは世界一だ。行ってこい」と気合を入れて控え室を出る。
人は生きていく過程で修羅場を経験し、それをくぐり抜けることでまた一つ大きくなっていく。高い次元での修羅場を経験したら、それだけ早く成長できると言うことだ。

●自己プロデュース能力を身につける
一等賞をとることが人間としての目的だとは考えないし、勝ち負けの結果や人の序列といったものに意義も感じていない。だが、結果としてトップを取るだけの力を持った人は、精神的に誰よりも強さを身につけている
ということは歴然とした事実だと思う。他者との戦いに勝てる力のある人は自分の身に降りかかる難題やさまざまな誘惑も克服していけるだろう。そういう強さを持つことが有益なのではないだろうか。