2020年2月1日土曜日

ブラームスはお好き

いーぐる講演 第675回
第19回横断的クラシック講座「ブラームスはお好き」

解説 林田直樹

3時間半ブラームスを学ぶ。
JBL4344MkⅡの真横で聴く。
いーぐるのオーディオシステムはすばらしい。
ホールで聴くのより良かったりして。
演奏家の息づかいまで伝わってくる。
最高峰の演奏録音に感動。
ハイフェッツとブラ1が秀逸。



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~ロマ文化との接点~
●ブラームス:ハンガリー舞曲第1番ト短調(ロマ風アレンジ)※約5分半
アンドレアス·オッテンザマー(クラリネット)レオニダス·カヴァコス、クリストフ·コンツ
(ヴァイオリン)アントワーヌ·タメスティ(ヴィオラ)シュテファンコンツ(チェロ) エー
デンラーツ(コントラバス) オスカール·エケレシュ(ツィンバロム)
Universal
ブラームスは上流階級より庶民にシンパシーをかんじていたのではないか。

~愉快に、気ままに、 人生を楽しむ~
●ブラームス:セレナード op. 106-1 ※約2分
クリスタルートヴィヒ(メゾソプラノ) レナード·バーンスタイン(ピアノ)
Sony
伴奏のピアノが前に出まくっている。バーンスタインもユダヤ系だから熱くなったか。

~継着とした弦に宿る、ほの暗い情念~
●ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変口長調 op. 83 ~第2楽章 ※約8分半
ヴィルヘルムバックハウス(ピアノ) カール·シューリヒト指揮 ウィーン·フィル
London
古いウィーンフィルのすばらしい響き。
夕暮れ時のような弦。拍手!
ウィーン·フィルは自分の意思をもっている。室内楽に近い。お互いの音をよく聴きながら演奏する感じ。指揮者はパートナー。コンサートマスターも単独で入場しない。

~ウィーンのカフェ文化で生まれた、大衆音楽の源流~
●ブラームス:愛の歌 op. 52 より ※約9分
第1曲「私に話して、乙女よ」
第2曲「奔流は岩にぶつかり」
第3曲「ああ、女性よ」
第4曲「タ方のれやかなタ日」
第5曲「青々としたホップの蔓が」
第6曲「可愛らしい小鳥」
シグヴァルズ·クラーヴァ指揮 ラトビア放送合唱団
スリエピニェス(ピアノ)
ダーツェ·クラーヴァ、アルディ
ondine
新しい録音。ラトビアは歌の国。
ジャズとクラシックの違い。大人数の合唱はジャズにない。
ウィーンのカフェ文化から生まれた曲。当時はオーディオがないので自分たちで演奏し歌っていた。
「愛の歌」はポップスの源流ではないか。

~晩年の大ヴァイオリニストの心をとらえた室内楽~
●ブラームス:ピアノ三重奏曲第2番ハ長調 op.87 ~第3楽章 ※約4分
ヤッシャハイフェッツ(ヴァイオリン) グレゴール·ピアティゴルスキー(チェロ)
ードペナリオ(ピアノ)
レナ
RCA
ハイフェッツはヴァイオリンの絶対王者。
超絶技巧奏者だったが晩年は室内楽に熱心に取り組んだ。

~言葉にはならない、香りのようなもの~
「メロディのようなものが僕の心に」op. 105-1 ※約2分半
ペーターシュライアー(テノール)ペーター·レーゼル (ビアノ)
日本コロムビア
33-1697
メロディ讃歌の曲。特別なメロディ。

~「森や林の神秘的な魅力に満ちた宝石のような音楽」 (クララ·シューマン)~
●ブラームス:交響曲第3番へ長調 op. 90 ~第3楽章 ※約7分
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC 交響楽団
RCA/Sony
ジェーン・バーキンやシナトラなどのポップスに使われたメロディ。
シューマンの死後クララを支援していた。ブラームスの最愛のひとだった。
トスカニーニはカンタービレの王者。よく歌っている演奏。

~避暑地の川のほとりで散策をしながら~
●ブラームス:ヴァイオリン·ソナタ第2番イ長調 op. 100 ~第1楽章 ※約8分
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン) アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ、1875 年製ベ
ーゼンドルファー)
Harmonia mundi
作曲当時の楽器、演奏法で演奏することが今の潮流。19世紀のヴァイオリンとピアノ。ファウストは音のシェイプに敏感。
ブラームスはよく散歩をする人「あちこちにメロディが落ちていて踏まずに歩くのがたいへんだった」と言っている。

~孤高な峻厳さと悲しみの色~
●ブラームス:交響曲第4番ホ短調 op. 98 ~第1楽章 ※約11分半
アントニオペドロッティ指揮 チェコ·フィル 1958年録音
Supraphon
晩年は気難しくなっていった。
「孤独だが自由だ」
ペトロッチの演奏はオーケストラの極地。カンタービレ。燃えるような演奏。
ブラームスは新古典主義。がっしりとした形式がよく出ているのが最後の交響曲、4番。

~「セクシーだと思わないかい」「え、何だって?」~
●ブラームス:間奏曲イ長調 op. 118-2 ※約5分半
グレングールド(ピアノ) 1960年録音·通常盤とは別テイク
Sony
グレングールドAとグレングールドBの会話から。
グールドの演奏はサラッとしている。一番淡い感じで秘密めいた演奏。抑圧の中に欲望が高まる。クララとの背景も見える。


~老いた作曲家の創作欲を再び燃え立たせた、クラリネットの音色~
●ブラームス:クラリネット五重奏曲口短調 op. 115 ~第4楽章 ※約10分
レオポルトウラッハ(クラリネット) ウィーン·コンツェルトハウス四重奏団
Westminster
ブラームス室内楽の最高傑作。

~ブラームスの影響(1)堅牢で古い様式のなかに込められた暗い世界~
●ヴェーベルン:パッサカリア op. 1 ※約12分
ヘルベルト·フォン·カラヤン指揮 ベルリン·フィル
universal
ブラームスは1897年に没。ウィーンは世紀末を迎える。マーラーやクリムトたちの新しい芸術の時代が始まる。
その中でブラームスの影響を直接受けた20世紀の作曲家がヴェーベルン。
フロイトがウィーンに現れた。精神分析の始まり。無意識を発見した。抽象の始まり。

~ブラームスの影響 (2)時間もドラマも封じ込める新しい旋律への希求~
●武満徹:海へ~第1曲:夜 ※約4分半
沢井一恵(十七絃等、 編曲) 中川昌三(アルト·フルート)
日本伝統文化振興財団
フルートとハープのために書いた曲。それを編曲。武満は「新しい歌をブラームスのように歌いたい」と言っていた。

~国家が滅亡しようとする極限的状況で、音楽はどのように鳴っていたか~
●ブラームス:交響曲第1番ハ短調 op. 68 ~第4楽章 ※約17分
ヴィルヘルム·フルトヴェングラー指揮ベルリン·フィル 1945年1月22、23 日
帝国放送局による、第2次世界大戦終結前最後の演奏会のライヴ録音
Ber liner philharmoniker
ドイツ
一昨年に発売された音源。神懸かり的な演奏。いつ爆撃されてもおかしくない状況。ドイツ人は最後まで音楽を必要としていた。

~芸術家の心を持つ、親しい友人の死に際して~
●ブラームス:哀悼の歌 op. 82 ※約12分
ジョン·エリオットガーディナー指揮 オルケストル·レヴォリューショネル·エ·ロマンテ
ィク モンテヴェルディ合唱団
SDG
ブラームスの本質は合唱にある。
友人のフォイエルバッハの死に手向けた明るい曲。
内声、折り重なった層の声が奥行きをつくりだしている。内側の動きが魅力。

Nanie(哀悼の歌) op.82
詩:フリードリヒフォン·シラー(1759-1805)
曲:ヨハネス·ブラームス(1833-1897)

どんなに美しいものも いつかは死ななければならない
それが人間と神々を支配する捉なのだから
ゼウスの青銅の心の非情を動かすことはできないのだ

かつて一度だけオルフェオの愛が冥界の王ハーデスの心を溶かしたことはあったが
地上への出口にたどり着かぬうち、容赦なく死者は戻された
かのアフロディテさえも 愛した少年の傷を癒すことはできなかった
猪が残酷に引き裂いた華著で柔らかい身体は 元に戻らなかった
英雄アキレウスも その不死の母テティスは救うことはできなかった
スケイアの門で倒れた彼が 死の運命を受け入れたときにも
けれども 彼女は海底より美しいネレウスの娘たちと共に昇り
偉大な息子のために嘆きの歌を歌いあげた

見よ!神々が泣いている、女神たちも皆泣いている
美しきものが色あせることに 完全なるものも死にゆくことに
愛する者の口から流れ出る 嘆きの歌の何と輝かしいことだろう
なぜなら凡人たちは 音も立てずに冥界へと降りてゆくのだから