2026年5月31日日曜日

モダニズム建築とは何か

藤森照信・著、宮沢洋・画 2022年、彰国社

世界中の都市に、なぜ鉄とガラスとコンクリートでできた四角い箱(モダニズム建築)が立ち並んでいるのか?

1. 人類の建築「アメ玉論」

藤森氏は、人類の建築の歴史を「アメ玉の袋」に例えて説明する。

  • 石器時代などの原初、建築のスタイル(アメ玉の種類)は非常にシンプルだった。

  • 文明の進歩に伴い、世界中で多様な装飾やスタイルが生まれ、アメ玉の袋はパンパンに膨らんだ(19世紀の歴史主義建築の絶頂)。

  • それが20世紀の「モダニズム」を迎えることで一気に収斂し、再びシンプルな原点(透明なアメ玉)へと戻っていく。本書はこのダイナミックな歴史の動きを解説する。

2. 歴史主義建築の終焉と「科学・数学の相」への到達

19世紀まで世界を席巻していた、過去の様式を模倣・装飾する「歴史主義建築」が消えた理由を紐解く。

  • アール・ヌーヴォー: 植物などの「生命の相」を取り入れて歴史主義からの脱出を試みた。

  • アール・デコ: 生命の土台となる鉱物などの「結晶の相」へと移行した。

  • モダニズム(幾何学・数学の相): 最終的に行き着いたのが、さらにその土台となる「数学(幾何学)の相」だ。20世紀の建築学校「バウハウス」などは、科学技術の時代を背景に、「鉄・ガラス・コンクリート」という3大素材を用いて、装飾を排除した四角い幾何学的な構成美を打ち出した。科学に国境がないように、このスタイルは世界共通の「インターナショナル・スタイル」として広がっていった。

3. モダニズムと日本の伝統

西洋で生まれたモダニズム建築だが、実は「日本の伝統建築」が強い影響を与えていたと指摘する。 フランク・ロイド・ライトをはじめとする西欧の建築家たちは、日本の柱と梁による直線的な構成、空間の流動性、引き算の美学(簡素さ)に衝撃を受けた。それがモダン建築の空間作りのヒントになったと紐解く。

4. 人類の造形感覚と「原点ゼロ」への帰還

モダニズム建築とは、キリスト教などの大宗教や権力が建築を支配していた時代を終え、「神は死んだ」の思想のあとに訪れた「原点ゼロ(振り出し)」の状態であると結論づける。人類が一度これまでの装飾や歴史をすべてリセットし、素材そのものと人間の純粋な造形感覚に向き合った結果が、現代の都市を埋め尽くす四角い建築の正体だ。

【章構成】

  • はじめに(宮沢洋)

  • 第1章 歴史主義建築はなぜ消えたのか

  • 第2章 モダニズムと日本の伝統

  • 第3章 人間の造形感覚

  • 第4章 振り出しに戻った人類の建築

  • 補講1 大宗教時代の建築を考える: 中国や日本の寺はなぜ横長になってしまったのか

  • 補講2 藤森照信塾長に聞く: 「神は死んだ」からの「原点ゼロ」

  • おわりに(藤森照信)

【結論】

本書は、一見冷たく退屈にも思える「鉄とガラスの四角い箱」が、実は人類が数千年かけて装飾の歴史を削ぎ落とし、科学と普遍的な幾何学に到達した「人類の建築史の必然的な終着点(あるいは新たな出発点)」であることを、117もの豊富な建築作品イラストとともに納得させてくれる一冊。